自殺をする動物。それは、人間。(創作)

電車のホームに定期的に聞いてしまうアナウンスが流れる。

「ただいま、〇〇駅にて発生しました人身事故の影響により、遅れが発生しております。お急ぎの皆さんには大変ご迷惑をおかけしますことをお詫び申し上げます。」

「人身事故だってさ…迷惑な話だ」

「でもまぁ人が死んでるわけで」

「でも死に方ってもんがあるでしょ。他の人に迷惑かける死に方ってのもどうなんだか。遺族への賠償請求ハンパないって言うし…」

「人への迷惑も考えられないぐらいに追い詰められてたんじゃないの?もう何もかも終わらせて楽になりたい的な。早まらなくてもいいのに…冷静な思考じゃない。明確な意図を持って自殺する動物って人間だけだって話知ってる?」

「んっ?そうなの?」

「生命を保ち、種の繁栄をするために、生き残るために、人間は知能を成長させて来たのに、その成長した知能のせいで、生存本能にさえ逆らって、自分で死んじゃうんだぜ」

「あれまぁ。まぁ、何でもほどほどが一番ってことだな」

「死ななきゃならないような理由って何だろうな。まさか自殺するために生まれてきたわけじゃあるまいし」

「でも、生まれたくて生まれてきたわけじゃないだろ。まぁ、でも俺なんか死ぬのは嫌だからとりあえず生きてるっていう消極的な生き方なところある。死ねない。死にたくない。じゃあ生きるしかない。生きていくにはお金が必要。じゃあ多少嫌でも働かないとね…的な?」

「それなんだよ。死にたい奴なんていないんだよ。死にたいってのは嘘に決まってるんだ」

「そうか、死にたい奴っていっぱいるだろ…」

「死にたいってのは要は、生きるのがツラいってことだろ。つまりは、そのツラさが取り除かれれば積極的に死にたいなんて奴いないだろ?死にたいってのは生きるのがツラいの裏返しなんだよ…」

「う〜ん」

「だから死にたいっていう奴に浴びせる言葉ってさ、『そんなこと言っているウチは死なねぇよ』とか、『構って欲しいの?』とかじゃなくてさ、『何がツラいの?』が正解だと思わね?」

「でもさ、例えばだけど…」

「うん」

「不治の病とかでさ、ず〜〜〜と痛みが続くわけよ。もう、新治療法も、新薬も望めない状況。毎日毎日痛みに耐え続けなきゃいけないわけ。それがもう苦痛で苦痛でしょうがなくて、もう死にたいわけよ。そしたらさ、安楽死を法律で認めてさ、一瞬で死ねる劇薬みたいなの投与して楽に死なせてあげるって考えもありじゃん」

「でもそれは生きてるツラさが取り除けない場合じゃん」

「でも一緒じゃない?だって死にたいって人からしたらもうこのツラさがずっと続くようにしか思えない状況なんだぜ。死にたい人には楽に一瞬でしなせてあげればよくない?そしたら電車にも飛び込まないじゃん?」

「でも…でもさ…。本当にずっと辛い状況が続くとは限らないじゃん。何事にも始まりがあれば終わりがあって、永遠なモノなんて殆どないわけでさ。生きていればこそ見れるものもあるじゃん。死んだらそこで終わりじゃん。本当にこの先ずっとツラい状況が続くかってわからないじゃんかさ。未来なんだし。不治の病でもさ、40年ぐらい病気に耐えたらさ、40年後に新薬が開発されてさ、その後の20年くらいスッゲー楽しく生きれたかもしれないじゃん?」 

「人間そんな耐えられるような人ばかりじゃないだろ。苦しみのない世界に飛び立った方が楽だし、幸せかもしれないぜ。幸せって周りが決めるものじゃなくて自分が決めるものだからさ」

「じゃあ、お前にとっての幸せって何よ?」

「あんまり仕事しないでもだらだらして、のんびり暮らすことかな」

「なんだそれ、これから電車で仕事場に戻ろうってのに」

「本当に幸せから遠いところにいるなぁ。この後の運転再開したぎゅうぎゅうの満員電車に乗って、わざわざ嫌な場所に行くのが幸せだと思うか?絶対違うね」

「違うな」

「でも生きるためには、この現代の社会ではお金がいるんだよ。働かないとお金がもらえないし生活ができない。生活のために働いて、働きすぎて死んで生活を終わらせる奴がいる。意味わかんねぇ社会だな」

「あぁ、本当に意味わかんねぇ理不尽なことだらけだよ。ある程度金ためっていっそ田舎で土地借りて、農業やって、自給自足の生活でもするか?」

「それはそれで大変さがあるだろうさ。結局だらだらして暮らすとか不可…」

ホームからアナウンスが流れる。

「ただいま〇〇駅から〇〇駅の間での折り返し運転が再開しました。ただいま隣の〇〇駅を出発いたしました。みなさんへは大変ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。」

一人の人間がこの世を去ったが、何事もなかったかのように電車は動き始めた。

銀色に光った箱は、イライラを募らせたたくさんの人達を一駅ごとに吸い込んでいった。

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